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東京地方裁判所 平成6年(ワ)18460号 判決

原告

中島隆

被告

樹建設株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金三三万円及び内金三〇万円に対する平成六年四月一六日から、内金三万円に対する平成六年一〇月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、一五四万二二二四円及び内金一二三万二二二四円に対する平成六年四月一六日から、内金三一万円に対する平成六年一〇月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、自動車を運転中、後方から走行してきた自動車に追突された原告が、加害車両の所有者に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

1  本件交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

事故の日時 平成六年四月一六日午後五時五五分ころ

事故の場所 東京都千代田区隼町四番地先路上

加害者 訴外因間久晃(以下「因間」という。加害車両を運転)

加害車両 普通貨物自動車(足立四六や九四九七)

被害者 原告(被害車両を運転)

被害車両 普通乗用自動車(練馬五四ね二八九二。甲一)

事故の態様 原告が信号待ちのため停止中、後方から走行してきた因間運転の加害車両に追突された。

2  責任原因

因間は前方不注視等の過失により本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任が存するところ、被告は、因間の使用者であり、本件事故は、被告の事業の執行につき、引き起こされたものであるから、民法七一五条に基づき(物損について)、また、被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき(人損について)、いずれも原告に生じた損害を賠償すべき責任がある(甲二、原告、弁論の全趣旨)。

三  本件の争点

本件の争点は、損害額、特に被害車両の評価損である。

1  原告

(一) 通院交通費 四二二四円

原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負い、平成六年四月一六日から同年六月七日までの五三日間に合計二二回通院した。

原告は、右通院の際、往復約一六キロメートルの距離を、自動車を使用したが、それに要したガソリン代は、一リツトル当たり一二〇円、燃費を一リツトル当たり一〇キロメートルとして算定すると、右金額となる。

(二) 通院慰謝料 三三万〇〇〇〇円

(三) 評価損 八九万八〇〇〇円

被害車両は、原告が本件事故の前日納車を受けたばかりの新車であるが、本件事故によりいきなり事故車となつてしまい、原告は不愉快な気持ちを味わつたうえ、被害車両の購入価格は、二六三万円であつたところ、修理後の評価額は一七三万二〇〇〇円とされ、本件事故により八九万八〇〇〇円も評価が下がつており、原告の被害車両に対する将来の不安も強く、これらは評価損として償われるべき損害である。

評価損の判断に際しては、必ずしも機能的障害が残存し、あるいは外観が損なわれ、耐用年数が低下した場合に限らず、損害の公平な分担という見地から、〈1〉修理技術上の限界から、顕在的に、自動車の性能、外観等が事故前より低下すること、〈2〉事故による衝撃のために、車体、各種部品等に負担がかかり、修理後間もなくは不具合がなくとも経年的に不具合の発生することが起こりやすくなること、〈3〉修理の後も隠れた損傷があるかも知れないとの懸念が残ること、〈4〉事故に会つたということで縁起が悪いということで嫌われる傾向があること、等の要素を加味して判断することが必要である。

(四) 弁護士費用 三一万〇〇〇〇円

2  被告

損害額、特に通院交通費、評価損については争う。

(一) 通院交通費

原告は、通院に勤務先の会社の営業車を使用しており、ガソリン代は、右会社から支給されているから、原告に損害は生じていない。

(二) 評価損

本件事故による被害車両の修理費は三六万八四二〇円であるが、工賃を除くと部品代は、一四万一三三〇円であり、それも被害車両が外車であることから部品代が高くなつたため、修理費が高くついたものにすぎないうえ、被害車両の修理に際し、客観的には部品交換の必要がなく、本来、板金修理が可能であるものについても、原告の心情を考慮し、また、原告の希望を入れて、特に交換に応じたものであり、修理の結果、残つた損傷もなく、被害車両の損害は、きわめて軽微なものであるから、被害車両は、修理をしてもなお、機能的障害が残存し、あるいは外観が損なわれ、耐用年数が低下したとはいえず、評価損発生の要件を満たさないから、評価損は認められない。

第三争点に対する判断

一  通院交通費 認められない。

甲四の1ないし3、原告及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負い、治療のため、平成六年四月二〇日から同年六月七日までの間に二二回、原告の勤務する会社(以下「会社」という。)近くの田中医院に、会社の所有する軽自動車で通院したものであるが、右自動車は、原告が会社から通勤用等に貸与されたものであり、右自動車のガソリン代金は、会社のカードで精算され、代金の請求は会社にされることになつており、右通院期間中の代金もすでに精算済みであることが認められる。

すると、原告が田中医院への通院に際し、自ら交通費を負担したものとは、いえないから、原告について通院交通費を認めることはできない。

二  通院慰謝料 三〇万〇〇〇〇円

本件事故による傷害の部位程度、通院日数その他本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると、本件事故による原告の通院慰謝料は、三〇万円と認めるのが相当である。

三  評価損 認められない。

甲一ないし三、乙一、二の1ないし15、三、証人今氏秀典、原告に前記争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被害車両は、平成六年三月一五日新車で購入され、同年三月三一日初度登録された一九九四(平成六年)式オペルアストラGTであり、原告は、同年四月一五日株式会社ヤナセ(以下「ヤナセ」という。)東京支店練馬営業所から引渡を受け、被害車両の購入価格は二六三万円、走行距離が約一七九キロメートル、車検有効期限が平成九年三月三〇日であつたところ、原告は、右引渡日の翌日である平成六年四月一六日午後五時五五分ころ、時速約三〇キロメートルの速度で六時の方向(真後ろ)から加害車両に追突される本件事故に遭い、リアバンパー、リアゲート、マフラー等に損傷を受け、被害車両は、同年五月ころ、ヤナセによる修理を受けた。

被害車両の修理に際し、リアゲート等を交換するか板金修理ですませるかについては、修理で処理することも可能であつたが、ヤナセと保険会社担当者との協議の結果、被害車両が新車であること、原告が交換を希望したことから、被害車両のリアゲート、リアバンパーが交換されたほか、リアエプロンの板金修理等が行われ、被害車両の修理費用は三六万八四二〇円であつた(工賃二一万六三六〇円、部品代一四万一三三〇円、消費税一万〇七三〇円)。

なお、右修理費と、リアバンパー、リアゲートの交換をせず、修理だけで対処した場合との差額は、概ね一三万八八六〇円であつた。

ヤナセにおける中古車価格の査定は、ヤナセ東京支店中古車部が車種、年式から毎年作成する基本価格表をもとに、車検及び自賠責保険の残存期間、走行距離、車体の損傷の程度、タイヤの溝の磨耗等を加味して評価することになつていたが、査定をした平成六年四月一八日当時、被害車両は、登録後一年未満であり、未だ基本価格が形成されていなかつたため、被害車両の販売担当者今氏秀典がヤナセ東京支店中古車部と相談し、基本価格を一七二万円としたうえ、タイヤ残加点四万八〇〇〇円、車検残加点一二万二〇〇〇円、自賠責残加点四万四〇〇〇円、事故落減点(修復歴減点)を一七万二〇〇〇円(ただし、修理費を四〇万円として算定)として、査定価格を一七六万二〇〇〇円と評価した。その際、事故落減点以外の要素には、本件事故による影響は考慮されなかつた。

修理の結果、被害車両には車体に残る損傷はなく、修理による不具合も確認されなかつたうえ、現時点においては、将来の耐用年数にも格別影響は、予想されていない。

2  右の事実をもとにすると、本件事故による被害車両の損傷は、損傷の部位程度及び修理費用等に照らし、比較的軽微なものであつたというべきであり(損傷が車体後部に限局され、リアゲート、リアバンパーについては、必ずしも交換を要せず、板金修理だけでも可能であり、リアゲート等を交換した割りには、修理費用は外車としてもそれほど高額でない。)、また、修理の結果、被害車両には外観上の損傷や機能的障害が残存せず、今後の耐用年数にも特段の影響がないことが窺われるから、被害車両には、もともと評価損は発生しないというべきであるうえ(なお、原告の指摘する諸要素は、車両の損傷の部位程度等を離れて常に考慮されなければならないものでもない。)、ヤナセによる被害車両の査定評価の下落は、その相当部分が、本件事故以前の被害車両の登録がなされたこと自体に起因するものであり(いわゆる登録落ち)、それ以外に本件事故により査定評価が下がつたとされる点については、ヤナセの査定方法によつても一七万二〇〇〇円だけであつて、しかも、その査定内容には疑問を挟む余地があり(事故落減点を算出する公式の合理性ないし妥当性については、何らの説明もない。)、他に査定減価を認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、本件において、原告の車両購入価格からヤナセの評価した査定価格を差し引いた金額をもつて直ちに被害車両の評価損とみることができないのはもとより、その他の要素を考慮しても、評価損を認めることはできないというべきである。

四  弁護士費用 三万〇〇〇〇円

本件事件の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、三万円と認めるのが相当である。

五  認容額 三三万〇〇〇〇円

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、三三万円及び内金三〇万円については、本件事故の日である(なお、訴状三丁裏一〇行目「不法行為日の翌日である」は、「不法行為の日である」の誤記と認める。)平成六年四月一六日から、内金三万円については、訴状送達の日の翌日である平成六年一〇月八日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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